今日のお話は、うなぎでなく、うな重に添えられている 「割り箸」 のお話です。
江戸時代の百科事典ともいうべき「守貞謾稿(もりさだまんこう)」の中で、鰻飯の項につぎのように、割り箸について書かれています。
なお、守貞謾稿が書かれた頃には、割り箸は、引き裂き箸と呼ばれていました。
「 (鰻飯には)必ず引き裂き箸を添ふるなり。この箸、文政以来此より、三都ともに始め用ふ。杉の角箸半を割りたり。食するに臨んで裂き分けて、これを用ふ。これ再用せず。浄きを証すなり。
しかれどもこの箸、また箸工に返し、丸箸に削ると云ふなり。
鰻飯のみにあらず、三都諸食店往々これを用ふ。かへつて名ある貸食店(りょうりてん)には用ひず。これ元より浄きが故なり。」
守貞謾稿が書かれたのが、天保期(1830~1843年)ですので、割り箸はそのころはかなり広まっていたと思われます。
それでは、割り箸がいつごろから使われ始めたかというと、守貞謾稿には、文政(1818~1829年)以来と書かれていますし、天明(1781~1788年)初期ごろという説もあり、割り箸の起源ははっきりしません。
箸は、弥生時代から使われていますが、割り箸は、意外にも江戸時代後期から使われはじめたようですね。
割り箸の種類
割り箸は、どれも同じと思うことが多いようですが、実は、いろいろな種類があります。
それを紹介していきます。
☆天削箸(てんそげばし)
割り箸の頭部の部分を斜めに削ぎ落としたもの。ちょうど、天(頭)が削(そ)がれて見えるのでこの名があります。
木目(杉、桧など)の美しさを強調している高級感のある箸です。
上の「大江戸」のうな重の写真で、添えられている箸も天削箸です。
主として高級料亭や家庭においてお客様をもてなす時に使われます。
☆利久箸(りきゅうばし)
真ん中が太く両先が細い箸で、千利休が、茶席でもてなす時に愛用したと伝えられています。利休でなく、利久と書くのは、利休の号を遠慮したためと考えられています。
吉野杉のものが最高とされています。
☆元禄箸(げんろくばし)
割れ目に中溝をつけた箸で、箸頭までまっすぐに割れやすくなっています。
箸の頭部の切口を上から見ると元禄に流行した市松模様に見えるところから、元禄の名がついています。
現在、最も多く流通している形です。
☆小判箸(こばんばし)
箸の角を丸くした割り箸で、箸の頭部の切口が小判型に見える事から、こう名づけられました。
元禄箸と同じく汎用的に使用される割箸です。
☆丁六箸(ちょうろくばし)
面取りをしない、最も加工度の低い割り箸です。.
これまでの箸の名前は形状を現す名前ですが、これは「丁度6寸(約18cm)」という長さからきた名前です。
市販の割り箸では最も短く、角削り加工がなく、割れ目が入っているだけの経済的な箸です。
☆竹割箸(たけわりばし)
九州南部の竹材を利用して開発された、やや太めの割箸ですが、現在はコストの関係もあって中国産の竹が多く利用されています。
勝れた強度と油を弾く特性から天婦羅屋やうなぎ屋などで利用されています。
竹割箸では、天削か、双生が多いようです。
双生は、箸を丸く加工したものを二つ並べたようなものをそう呼びます。
このようにたくさんの種類の割り箸があります。 なにげなく見逃してしまう割り箸にもちょっと目を留めてみてはいかがでしょうか。
割り箸の写真は、奈良県吉野郡で吉野杉・吉野桧のお箸・割り箸をつくられている「吉膳」様からご提供いただきました。「吉膳」様ありがとうございました。