南和男氏著「江戸の町奉行」に非常に具体的書いてありますので、それに沿って、書いていきます。
「江戸の町奉行」では貸金返済請求を例に説明してあります。
借家人は、まず家主と五人組にその理由を述べて、彼らの承諾を受けて、相手側の家主に訴えの理由を告げて、預りを依頼します。
預りとは、訴訟中、被告が現在地を離れないことを保証するものです。
依頼された家主は、本人と五人組を呼び出して、なるべく示談ですますよう説得します。
しかし、示談を承知しない場合には、原告の家主に預かりを出します。
原告の家主は原告の訴状に預かり証を添えて名主に提出します。
名主は本人と家主を呼びだし、示談をすすめます。
しかし、やはり承服しない場合には、相手側の名主に通知します。
被告支配の名主は被告とその家主をよびだし、やはり示談をすすめます。
しかし、ここでも聞き入れない場合には、その始末を原告側の名主に通知します。
原告側の名主はここではじめて原告の訴状に奥印して家主にわたします。
家主は、本人同道で月番の奉行所に行き訴状を提出します。掛役人は訴状の形式・内容などの違法の有無を審査します。
これがすむと正式の訴状をします。町奉行所では、これに相手方が何日に奉行所へ出頭すべき旨などの裏書をして、加印して訴訟人に渡します。
裏書を加えられた訴状は、訴訟人が相手方に送ります。相手方は出頭するようにと指定された日(差日)以前に訴状と返答書を奉行所に提出します。
差日には、原告、被告、双方の家主などが腰掛で呼び込みを待ちます。
やがて表門続きの長屋の窓から中番が原告・被告を呼びます。
原告・被告が揃って白州の潜りに進むと、番人は大きな鍵をもって五尺余りの大きな潜り戸をあけ、白州の内に通して直ちに錠をおろします。
ここで初めて双方の吟味が始まります。
この最初の吟味は「初めて対決(初対決、初而公事合、一通吟味)」といい、おおよその吟味にとどまり、通常本格的な吟味は、この後、吟味方与力によって行われます。
初対決には通常奉行が立ち会います。奉行の出る白州は広く、与力が取り調べる白州は狭い白州です。
吟味方与力の審理が一応終わると裁判調書に相応する口書が作られ、例繰方は罪状判決の類例を探して提出します。これに基づいて町奉行より双方に判決が言い渡されます。
こうした手順で出入筋の裁判は進行しますが、幕府はできる限り内済(ないさい)つまり和解を奨励しました。
訴訟を起こすにあたって、家主や五人組さらに名主の承諾を得なければ訴訟できない仕組みとなっていますので、訴訟を起こすまえにトラブルは相当数解決したものと思われます。もちろん泣き寝入りもあったかもしれませんが。