町奉行について調べると調べるほど、激務だということがわかってきます。
町奉行は、大火の際には自ら出動しますが、その責任も大変です。
火事場出動の時の様子が、「江戸町奉行事蹟問答」には次のように書かれています。
奉行出馬の節、月番は火先へ駆け付け候、非番は後口(風上の方面)へ賭け。火事場掛の与力同心をして火元を糺(ただ)し、消防方指揮し御場所柄大切の場所危うし駈け見るか何か異状ある出火と認める時は即刻騎馬供公用人(内与力)を以て大城(江戸城)当直の御目付老中(在宅の刻限であれば役宅)注意し、臨機の職掌を施すこと兼ての心掛なり。
通常なる時は供方同心を駈けて注意し、消防の手配、火勢の模様等時々供方公用人、火事場掛与力と協議し、右筆に命じ注進状を筆記せしめ前の如す。
町奉行が出馬する時、月番は風下に出動し、非番は風上に出動します。
そして、重大な大火の際には、老中に内与力を注進に派遣し、通常の火災の場合には同心を派遣します。なお、公用人(内与力)というのは、町奉行個人の家臣で奉行の腹心となって勤めました。
火事見廻(旗本)、御使番(旗本)、御目付(旗本)いづれも火事場へ出馬し来るなり。幕府の定火消役人数其他藩より出る消防人数等駈け集まり(侍火消という)江戸町中より町火消駈け付け候故、消防混雑を生ぜざる様に主務の持ち場を分かち町火消には与力同心を以て指揮し、或は公用人(内与力)馬上にて奉行の意を与力同心へ通し候。伝令使に遣い駆け引きいたし侍火消の進退駈引は前の役々と協議して取扱い、火事場先重立役人は町奉行に付、消防の指揮号令駈引は其責任重く、前の役々も町奉行の指揮に随い、これを助けて取扱候は勿論なれども、非常混雑の場合なれば様々の紛擾を生ずることあり、然るときは出馬の御目付へ奉行の意を陳べて侍火消の者役々へ指揮せしむるなり。御目付は監察の職権を以て、能くこれを料理するなり。
火事場には、定火消や大名火消、町火消が出動します。
これらの全体を指揮するのは、町奉行の任務です。
赤字部分にそれが書いてありますのでお読みください。この中に「火事場先重立役人」という言葉でてきますが、これは「かじばさきおもだちやくにん」と読み火事場での重要な役人という意味だろうと思います。
また、火事場が混乱する場合には、目付と協議の上指揮を執ると書かれています。
幕府時代の火事場は泰平の戦争所と同じく、侍火消も町火消も共に必死の覚悟にて死を恐れずして働き、己の職掌と消し口聊(いささか)の争いより怪我人、死人を生じ、忽ち大紛擾と相成り、敲き合い、抜剣の大争動を起こして、町火消仲間にても夫々組に分かれ励み合い候故、 指揮の行違いより忽ち命掛けの紛擾を起し見る見る怪我人死人を生じ、死を以て争い候。死事出来候。
町奉行と雖も、自分勝手の駈引きはでき難く火事場掛の与力同心練熟の者と謀り、規矩を正し、指揮よろしきを得て、鎮火後、町火消の働き、組下与力同心の働きも公平に取調べ賞誉を与え、巳後を奨励するものなり。
火事場は、戦場と同じで、争いごとが絶えません。
町奉行は、練達して火事場掛の与力同心とよく協議し指揮をしていきます。
火事場掛の与力同心とは、正式には「町火消人足改」と呼ばれる掛で、町火消の取締・指揮を担当しました。
火事場での総指揮者が町奉行とは知りませんでした。
気の荒い定火消や町火消を指揮して鎮火させていくわけですから、相当の統率力が必要になりますから大変の仕事ですね。