「輪違屋糸里」読了しました(「幕末」)

浅田次郎さんの「輪違屋糸里」を読了しましたので、今日はこの本の紹介をします。

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「輪違屋糸里」ってどっかで聞いたと思う人は、前回の「芹沢鴨の暗殺」をよく読んでいただいた方だと思います。

そうです。芹沢鴨が八木源之丞邸で暗殺された時に、平間重助と一緒に寝ていた女性です。

 「輪違屋糸里」は芹沢鴨の暗殺を題材とした時代小説です。

この小説に登場する主な人物を紹介します。

芹沢鴨の暗殺が題材ですので、襲撃される側の芹沢鴨、平山五郎、平間重助、そして襲撃する側の近藤勇、土方歳三、沖田総司は当然登場します。

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しかし、この人たち以上に重要な登場人物が女性たちです。つまり、女性の側からみた「芹沢鴨暗殺事件」という内容です。

登場する女性たちとは主に次の人たちですが、歴史書の中ではあまり出てこない人たちのですので、詳しく紹介しておきます。  

【糸里】 島原の置屋輪違屋の芸妓 

芹沢鴨の暗殺の際に、八木源之丞邸で平間重助と寝ていた女性。


ちなみに、島原の輪違屋は現存していて、先日の京都旅行の際に見物してきました。
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  京の島原は、江戸の吉原と異なり花街だそうです。そのため色を売ることはなかったそうです。輪違屋は置屋です。置屋は芸妓を抱えていて、現在の料亭である揚屋に芸妓を派遣していたそうです。

輪違屋は元禄時代の創業の店で、安政4年に再建された建物は京都市指定文化財となっています。

「輪違屋糸里」⇒ 土方歳三に思いを寄せている。土方歳三も愛しているが、芹沢鴨の強要により、平間重助に身を任せる。芹沢鴨の暗殺の際には、しびれ薬をいれるという重要役割を果たす。

【吉栄】 島原の置屋桔梗屋の芸妓 

芹沢鴨の暗殺の際に、八木源之丞邸で平山五郎と寝ていた女性。

「輪違屋糸里」⇒ 平山五郎の愛人。平山五郎の子供を宿し、身請けされることも願うが、それが無理をわかり、太夫になるため、平山五郎を裏切ることを決断する。

【お梅】  西陣の太物問屋菱屋の妾、芹沢鴨の愛人

「輪違屋糸里」⇒ 菱屋の妾であるが、女房を追い出し、倒産しかけた菱屋の立て直しに奔走する。掛金回収に行った際に芹沢鴨に手込めにされ、それ以降、八木源之丞邸で逢引をしている。お梅を裏切った主人太兵衛を殺害した後、頼れる芹沢鴨とともに覚悟のうえで殺害される。

【おまさ】 壬生の八木源之丞の妻 

【お勝】 「輪違屋糸里」では、新選組屯所前川荘二の妻として登場するが、これは浅田次郎さんの創作上の女性かもしれません。

小説は、輪違屋の音羽太夫を芹沢鴨が無礼討ちする場面から始まります。(この音羽太夫の無礼討ちは創作だと思います。)しかし、芹沢鴨は不思議にもお咎めがありませんでした。

その後、芹沢鴨は大和屋を焼討します。

御所近くの大和屋が燃え、京は騒然となり。京都守護職の松平容保が直々には現場に駆けつけ怒りを露にします。

その数日後、近藤勇、土方歳三たち試衛館の人々が松平容保に密かに呼ばれます。

その直後に起きた八月十八日の政変では、新選組にも出動しましたが、この時采配を振ったのは侍出身の芹沢鴨で、百姓あがりの近藤勇や土方歳三はその指示に従うだけでした。

ここに、浅田次郎さんは、芹沢たち侍出身者と近藤たち百姓出身者の違いを描こうとしていたようです。

8月18日の政変後、土方歳三は、芹沢鴨の要求に屈し、愛する糸里を平間重助に譲ります。

その後、土方は輪違屋糸里と桔梗屋吉栄を説得し、芹沢鴨暗殺に協力を求めます。それに対して、糸里は、土方歳三を愛することから、吉栄は、平山の身請けが困難なことから会津藩の援助で太夫への昇格させてもらうことを交換条件に土方に協力することを承諾します。

 9月18日、新選組は隊内融和のため、角屋で宴会を行い、それが終わった後、八木家で、芹沢、平山、平間、近藤、土方が飲み直し、糸里は、芹沢、平山の盃に痺れ薬が入ったお酒をそそぎます。そして、6人が寝入った頃、土方たちが襲い、芹沢平山が殺害されます。

 以上が、大まかなストーリーですが、感じたことなどを書いていきます。

1、この小説では、登場人物が一人称で身の上や考え方を語る部分があります。

 この部分を読むと、芹沢鴨、近藤勇、土方歳三など強面の印象のある人々が人間味あふれる人物として描かれています。

 芹沢鴨などはとても乱暴者には思えません。

2、この小説では、芹沢鴨暗殺を命じたのは、大和屋焼討事件に怒った京都守護職松平容保とされています。

 しかし、大和屋焼討事件は、交替で帰国するはずだった会津藩兵を引き返しさせるために、会津藩重役の指示で芹沢鴨が起した事件だとされています。

 つまり、芹沢鴨を動かしていた人が別にいるという筋立てです。

 このことが、芹沢を悪人役にさせずにすむ理由のように思います。

3、また、芹沢鴨の暗殺の段取りを細かく決めたのは土方歳三です。

 土方は、八木家での襲撃の準備は当然のことながら、土方を愛する糸里や平山を愛する吉栄も暗殺に協力させるための説得を自ら行います。

 まさに土方歳三が芹沢鴨暗殺の張本人というストーリーとなっていて、芹沢鴨暗殺に至る汚れ役は土方歳三です。

しかし、土方がその汚れ役に徹して細かな段取りまでなぜ行ったかというのは最終盤にわかります。ここも注目して読んでいくとよいと思います。

4、この小説のクライマックスは、芹沢鴨の暗殺が終わった後の土方と糸里のやりとりでしょう。

暗殺直後、土方は糸里と吉栄を、口封じのため、殺害しようとします。
 その時、糸里は厳然として土方に立ちふさがり厳しい口調で啖呵をきります。これにより、土方は二人の殺害を断念します。
 この時の啖呵は、小説を読んでいただいて確認していただきたいと思いますが、糸里の啖呵で触れていることも、浅田さんが、この小説で書きたかったことだと思います。

5、最も感動的だったのが、エンディングの3つの章です。

①事件の数日後、糸里は、近藤たちと一緒に松平容保から召し出されます。

この時に、一同が平伏する中で容保に糸里は「人を生かすことが御政道である」と堂々と申し述べます。

②次いで、愛する土方と結ばれることを断念した糸里が容保に名付けてもらった「桜木大夫」として初道中を行います。角屋で桜木大夫をまっていたのは一橋慶喜と松平容保でした。これも感動的でした。

③最後の最後の章では、糸里の故郷若狭国小浜で吉栄は女の子を出産します。

その子の名前には恩人糸里の名前「いと」とつけた吉栄は、安穏な生活をすて「いと」を育てあげる道を選ぶところで終わります。

この吉栄の思い出のなかに、吉栄が小浜に向かう際に、近藤勇が、京都の町はずれまで見送り、頭を下げる場面があります。近藤勇が好人物ととして描かれている場面の一つです。

最後まで読み終わって、この小説の主人公は、芹沢でもなく、近藤でもなく、土方でもなく、まさに題名の通り「輪違屋糸里」だとわかりました。

浅田次郎さんの小説は初めて読みましたが、浅田次郎さんの構想力・創作力・筆力のすごさに感動しました。

 幕末が苦手な人、新選組が嫌いな人、闘う場面が嫌いな人、いずれにもお勧めできる素晴らしい小説だと思います。
 読み始めたら必ず最後までお読みください。最後がすばらしいと思います。





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by wheatbaku | 2017-03-27 11:24 | 『幕末』 | Trackback
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