人気ブログランキング | 話題のタグを見る
江戸名所図会
 江戸を訪ねる時やこのブログを書く時に、常に参考にしている本は「江戸名所図会」「守貞謾稿(もりさだまんこう)」「東都歳時記」「江戸名所花暦」などです。これらの本を読むと、江戸の様子が生き生きと書かれていて、当時の様子がよくわかります。

 これらの本のうち、「江戸名所図会」について、感動的に紹介してある文章に出会いましたので、転載します。「江戸名所図会」がつくられた経緯もよくわかります。
  豊島寛彰著「東京歴史散歩 第一集 江戸城とその付近」からの抜粋です。
 

江戸名所図会_c0187004_15451778.jpg  『雉子町で思い出すのは「江戸名所図会」の著者斉藤幸雄で、彼は雉子町の草分け名主であった。江戸名所図会は幸雄、その子幸孝、孫幸成と3代にわたって苦心の末完成したものであって、われわれのような東京の歴史を探るものには必要かくべからざる参考書である。
 幸雄は神田雉子町の名主として6ヵ町を差配するかたわら、神田多町青物市場の監督をも兼ねる多忙の身であったが、江戸には完全な地誌がないところから江戸名所図会の刊行を思いたった。それからは暇をつくっては府内近郊の名所旧跡を探り、社寺をたずね、古老を訪い、一方では古書を調べ、ノートすること10数年におよんだが、不幸にも業なかばにして寛政11年に63歳で病死した。


江戸名所図会_c0187004_15563323.jpg  その子幸孝もやはり名主の忙職にあったが、父の遺業を完成せんものと名所旧跡を探査することになった。その苦心はなみたいていのものではなく、ある時は遺稿の一包み置き忘れて絶望の極に陥ったこともあり、父の頼んだ画家北尾重政は老齢のため絵が一向すすまず、代わりの画家を物色するのに大変苦労したりした。遺稿の包みは本所妙願寺本堂に置き忘れられてあった。住所も名前もわからず、ただ丹念に書き込まれている調査の原稿を見て、どうかして持ち主に届けんものと考えた住職海煉は、諸々方々に手を尽くしてたずね歩いた。これが幸雄の知人神田佐久間町の片岡寛光の耳に入り、ようやく持ち主がわかって手許にもどった。幸孝の躍り上がって喜ぶ顔がうかんでくる。絵の方は長谷川雪旦という無名の画家を知り、これを起用して挿絵を描かせることになった。雪旦の努力も尋常のものではなく、寒暑風雨をいとわず四季の風情をうむことなく忠実に写生して歩いた。文化15年幸孝も完成を見ることなく47歳で歿した。


江戸名所図会_c0187004_15565086.jpg その子幸成はわずか15歳の少年であったが、雪旦をはじめ多くの人の説得により、父祖の遺業を継ぐ決心をし、さらに15年を経て天保5年(1834)全巻20冊が刊行の運びとなった。ここに50年のながきにわたった斉藤家3代の苦心は豊かに実ってこの大刊行事業は完成したのであった。幸成はその後も江戸地誌に関係ある武江年表や、東都歳時記その他を著述し、明治11年75歳で歿している。
 また雪旦の努力と真心はこの事業の完成に大きな役割を果たしている。あるときはその熱心のあまり他家の屋上にのぼって写生し、泥棒と間違えられたこともあった。しかし、雪旦は江戸名所図会によって一躍有名になり、のちに絵師として法橋になった。

 雉子橋の項に江戸名所図会の作者について、ことさら書き添えたのはその文化的功績を礼賛したかったからである。』

 現代の私たちが、江戸の様子を手に取るようにわかるのは、斉藤家3代の苦心・努力の結果であることを改めて認識させられた一文です。
by wheatbaku | 2009-08-13 09:59 | 江戸に関する本

江戸や江戸検定について気ままに綴るブログ    (絵は広重の「隅田川水神の森真崎」)
by 夢見る獏(バク)
S M T W T F S
1 2 3 4 5
6 7 8 9 10 11 12
13 14 15 16 17 18 19
20 21 22 23 24 25 26
27 28 29 30 31
以前の記事
2024年 10月
2024年 09月
2024年 07月
2024年 06月
2024年 05月
2024年 04月
2024年 03月
2024年 02月
2024年 01月
2023年 12月
2023年 11月
2023年 10月
2023年 09月
2023年 08月
2023年 07月
2023年 06月
2023年 05月
2023年 04月
2023年 03月
2023年 02月
2023年 01月
2022年 12月
2022年 11月
2022年 10月
2022年 09月
2022年 08月
2022年 07月
2022年 06月
2022年 05月
2022年 04月
2022年 03月
2022年 02月
2022年 01月
2021年 12月
2021年 11月
2021年 10月
2021年 09月
2021年 08月
2021年 07月
2021年 06月
2021年 05月
2021年 04月
2021年 03月
2021年 02月
2021年 01月
2020年 12月
2020年 11月
2020年 10月
2020年 09月
2020年 08月
2020年 07月
2020年 06月
2020年 05月
2020年 04月
2020年 03月
2020年 02月
2020年 01月
2019年 12月
2019年 11月
2019年 10月
2019年 09月
2019年 08月
2019年 07月
2019年 06月
2019年 05月
2019年 04月
2019年 03月
2019年 02月
2019年 01月
2018年 12月
2018年 11月
2018年 10月
2018年 09月
2018年 08月
2018年 07月
2018年 06月
2018年 05月
2018年 04月
2018年 03月
2018年 02月
2018年 01月
2017年 12月
2017年 11月
2017年 10月
2017年 09月
2017年 08月
2017年 07月
2017年 06月
2017年 05月
2017年 04月
2017年 03月
2017年 02月
2017年 01月
2016年 12月
2016年 11月
2016年 10月
2016年 09月
2016年 08月
2016年 07月
2016年 06月
2016年 05月
2016年 04月
2016年 03月
2016年 02月
2016年 01月
2015年 12月
2015年 11月
2015年 10月
2015年 09月
2015年 08月
2015年 07月
2015年 06月
2015年 05月
2015年 04月
2015年 03月
2015年 02月
2015年 01月
2014年 12月
2014年 11月
2014年 10月
2014年 09月
2014年 08月
2014年 07月
2014年 06月
2014年 05月
2014年 04月
2014年 03月
2014年 02月
2014年 01月
2013年 12月
2013年 11月
2013年 10月
2013年 09月
2013年 08月
2013年 07月
2013年 06月
2013年 05月
2013年 04月
2013年 03月
2013年 02月
2013年 01月
2012年 12月
2012年 11月
2012年 10月
2012年 09月
2012年 08月
2012年 07月
2012年 06月
2012年 05月
2012年 04月
2012年 03月
2012年 02月
2012年 01月
2011年 12月
2011年 11月
2011年 10月
2011年 09月
2011年 08月
2011年 07月
2011年 06月
2011年 05月
2011年 04月
2011年 03月
2011年 02月
2011年 01月
2010年 12月
2010年 11月
2010年 10月
2010年 09月
2010年 08月
2010年 07月
2010年 06月
2010年 05月
2010年 04月
2010年 03月
2010年 02月
2010年 01月
2009年 12月
2009年 11月
2009年 10月
2009年 09月
2009年 08月
2009年 07月
2009年 06月
2009年 05月
2009年 04月
2009年 03月
2009年 02月
2009年 01月
2008年 12月
ブログパーツ
ブログジャンル
歴史
日々の出来事