葛では、次の学生時代に覚えた釈迢空(しゃくちょうくう)つまり折口信夫の和歌の葛の花が鮮明なものとして今でも印象に残っていて、葛と聞くとすぐに思い浮かびます。
葛の花 踏みしだかれて 色あたらし この山道を行きし人あり 釈迢空
葛は、万葉の時代から歌に詠まれていますが、ほとんどが葛の葉を詠んだ歌だそうで、葛の花を詠うようになったのは、近代になってからだそうです。万葉集には、葛が20首詠まれているそうですが、葛の花は1首だけで、残りは葛の葉を詠った歌だそうです。
現在は、葛の花は、秋の深まりを感じさせる花と言われることが多いので、近代以前は、葛の葉を詠う歌が多かったということに意外な感じがしました。
その葛ですが、葉は3つの小葉からなり、幅広く大きい。小葉は裏面に白い毛を密につけるので白く見えます。
花は、穂状で蝶の形をした紅紫の豆の花を咲かせます。花の後枝豆に似た実をつけます。それもそのはず、葛はマメ科の植物なんです。
つるは年がたつと太くなり、やや木質化し、地面を這うつるは、節から根を出し、あちこちに根付きます。
根は非常に深く、太って長芋状となります。その根からデンプンが取れます。
葛の名前は、かつて大和国の国栖(くず)が葛粉の産地であったことに由来するという説や漢名の葛(かつ)が転訛したという説、コス(粉為)に転訛などの諸説があります。
葛は、根からでる澱粉が、いろいろ利用されています。
江戸時代の貝原益軒の「菜譜」や大蔵永常の「製葛録」に記されている通り、もともとは救荒食糧としてして認められていました。
葛の根から取れるデンプンを精製することによって作られるのが葛粉で、葛切りや葛餅などの原料となります。
葛粉は、葛根を潰してデンプンを取り出し、水にさらす作業を何度も繰り返してアクと不純物を取り除き、最後に塊を自然乾燥させて作ります。
葛粉を湯で溶かしたものを葛湯と言い、熱を加えて溶かしたものは固まると半透明もしくは透明になることから和菓子等の材料として古くから用いられています。
くずもち(葛餅) は、葛粉から作られる和菓子ですが、混じり気のない葛粉100%の本葛からつくるくずもちは、西日本中心に作られます。
しかし、江戸後期に入り、小麦粉を発酵したものから作られた菓子も くずもち(久寿餅) とよばれるようになりました。
両者とも同じくずもちと呼ばれるので同じものと思いますが、東日本の小麦粉澱粉を発酵させて作る久寿餅と西日本の本葛から作る葛餅は製法・歴史的経緯含め全く別のものだそうです。
東日本のくずもち(久寿餅)は小麦粉から精製したデンプンを乳酸菌で発酵させたものであり、独特の風味があります。
江東区亀戸天神前の船橋屋のくずもち(上の写真)が有名ですが、川崎大師と池上本門寺のくずもちも有名です。
葛切り(くずきり)は、葛粉を水で溶かしてから加熱し、冷却して板状に固めたものをうどんのように細長く切った麺状の食べ物です。
冷して蜜をかけて食べたり、乾燥したものを鍋料理の具として用いたりします。
葛の根を干したものを生薬名葛根(かっこん)と呼ばれます。発汗作用・鎮痛作用があるとされ、漢方剤の葛根湯などの原料になります。
葛根湯は、カゼのひき始めや、肩こりなどに用いられる漢方薬です。