その遺訓は、7ヶ条からなっています。
大石慎三郎氏によると、田沼意次は、優れた財務家であるが、誠実一筋の人間であるうえに常々目立たぬように心がけていた、大変な気配り人間であったということになだろうと評価されています。
各条項は、下に書きました。
第1条で将軍家を大事にしろというのは、田沼意次の経歴からすれば当然のことと思います。
第2条も、当たり前と言えば当たり前です。
しかし、第3条、第4条、第6条を、よく読みますと、いかに、周りのひとに気をつかおうとしているかがよくわかります。
これが、遺訓として書かれていることが田沼意次らしいのではないかとおもいます。
この遺訓を読む限り、田沼意次は、悪徳政治家、賄賂政治家と言った評価は当てはまらないように思えます。
第一条 主君に対する忠節の事、仮にも忘却なきよう。なかんずく当家(田沼家のこと)においては9代家重公、10代家治公には、比類のない御厚恩を受けているのだから、夢々忘却なきように。
第二条 親に対する孝行、親族に対する配慮をおろそかにしないように。
第三条 一類(同族)中は申すに及ばず、同席の衆、さらに付き合いあのある人たちに対して、表裏・疎意がないように心掛けるべきこと。どんなに身分が低い人でも、人情をかける所は差別なく接するように。
第四条 家中の者には憐憫(れんびん)を加え、賞罰は依怙贔屓(えこひいき)がないように気をつけること。使いやすい人、使いにくい人にも、及ぶ限り気配りをして、油断なく召しつかうべきこと。
第五条 武芸は懈怠(けたい)なく心がけ、家中の者にも油断なく申し付けるように。若者には特にせい出すよう心掛けさせ、また見苦しからざる芸は、折々見学させ、時には自分自身も見物を心がけるように。しかし武芸にせいを出した上は、その余力で遊芸をする事は勝手次第で、それを止め立てする必要は毛頭ない。
第六条 権門の衆中には隔意失礼のないよう特に心がけるように。すべて公儀に関わることは、どんな些細なことでも大切に心を用い、諸事入念に行うことが肝要である。
第七条 諸家の勝手向(財政状況)を見るに不如意なのが一般のようで、良いのは稀である。不勝手がつのると公儀の御用さえ心ならずも勤めにくくなる。もちろん軍役も十分つとめにくくなるので、領地を拝領していても意味がなくなる。家の経済をたてることは大切至極のことであるので、常時油断なく心がけることが肝要である。但しこの一条は難しいことなので、特に「別紙」を添えることとする。
さらに後書には
以上の箇条を厳重に守り、日夜旦暮たがわないように心掛けるべきである。かつまた人並と違った動作で、世俗にはそげもの(変人)と言われる人が間々あるものだが、これもまた慎むべきことである。わざと事少なく記したが、これ以外のことはよく気を付け、人情の正道なる所を考え、よく油断しないように守ってくれることを希望する。
と書かれています。