蕎麦の種類が詳しく書かれているのは「守貞謾稿」です。
岩波文庫「近世風俗志」では、第一巻の204ページに書かれています。
それによると
あられ ばかという貝の貝の柱をそばに加うをいう。
てんぷら 芝海老の油揚げ3.4を加う。
花巻 浅草海苔をあぶりて揉み加う。
しっぽく 京坂と同じ(焼き卵、蒲鉾、椎茸、くわいなどを加えたもの)
玉子とじ 鶏卵とじない
また、鴨南蛮と云うあり、鴨肉と葱を加う。冬を専らとす。
また、親子南蛮と云うは、鴨肉にを加えし鶏卵とじなり。けだし鴨肉といえども多くは鴈などを用ふるものなり
と書かれています。
現在では、蕎麦屋のメニューに載っていないものがいくつかあります。例えば「あられ」や「花巻」「しっぽく」などです。
「あられ」は、ばか貝の貝柱をそばの上に加えたものです。
ばか貝は、江戸時代には、江戸湾で大量にとれた貝で、江戸前の代表でもありました。すしネタとしては「青柳」と呼ばれます。「青柳」といえば「あぁそうか」と思う人も多いと思います。
そのばか貝を、空から降ってくる「あられ(霰)」に見立てて「あられ(霰)そば」と名付けたようです。
「あられ(霰)」が降るのが冬のごとく、「あられそば」が店頭にでるのも、寒い時期です。
「花巻」は、海苔をそばの上に散らしたものです。ですから漢字で書くときは、「花巻」ではなく「花撒」の方が適切かもしれません。
ただ、かけそばの上に、揉んだ海苔を散らすだけのそばなのですが、「花巻」も意外とそば屋のメニューにはありません。
ですから、この「花巻」も食べたことがあまりないのではないでしょうか。
「しっぽく」は、漢字で書くと「卓袱」です。つまり卓袱料理に由来があります。
卓袱料理の中に、大盤に盛った麺の上にいろいろな具を載せた料理がありました。これをまねて作ったのが「しっぽく」です。
しかし、江戸では「しっぽく」は、あまり人気がでなかったそうです。
それは、おなじような「おかめそば」が考案されたからのようです。
「おかめそば」というのは、いろいろな具をおかめの顔をかたどって並べたためだそうです。
現代では、「おかめ」はメニューにまだありますが、「しっぽく」というのは、すっかり姿を消してしまっているようです。右写真は「おかめそば」です。
守貞謾稿には、そばの価格表も載っています。
それによると、
そば16文、あられ24文、てんぷら32文、花巻24文 しっぽく24文 玉子とじ32文となっています。
「てんぷら」と「玉子とじ」が普通のそばの3倍、「あられ」「花巻」「しっぽく」が2倍ということになります。