人気ブログランキング | 話題のタグを見る
「松風の人」(津本陽)を読む
 昨日紹介した「世に棲む日日」は既に読んでいるので、別の本を読もうと考えて、まず読んだ本が「松風の人」です。
 これは、津本陽氏が書いた物です。

「松風の人」(津本陽)を読む_c0187004_9545227.jpg 「松風の人」は、吉田松陰の一生を書いたものですが、吉田松陰の手紙や書いた物などを津本氏が現代語訳したものを多く使用しています。
 松陰自身の手紙などにより、吉田松陰の姿を、読者に際立たせようとしているように思います。
 この本を読むと、吉田松陰が多くの手紙などを残していると感じます。

 この本を読んで、私自身、新たに確認できたことがあります。
 それは、安政の大獄が始まり、江戸に召喚された吉田松陰が、嫌疑がかかっていなかった老中間部詮勝の殺害計画をやすやすとしゃべった理由です。

 吉田松陰が召喚されたのは、主に梅田雲浜との関係からでした。
 そして、江戸の評定所で、吉田松陰に問いただされたのは、梅田雲浜とどのような密議をしたかたということと、京の御所にあった落し文を書いたのが松陰ではないかという2点でした。
 これらについて、吉田松陰は、申開きをし、幕府の疑念は解消されました。
 その後で、吉田松陰は、老中間部詮勝を殺害しようとしたことを、聞かれもしないのにしゃべってしまったのです。
 これを聞いた奉行たちは、大変驚き、松陰は、その場で小伝馬町牢屋敷入りを命じられます。
 そして、このことが、吉田松陰の命を縮めることになったのです。

 松陰が自白をする事情について、「世に棲む日日」で、司馬遼太郎氏は次のように書いています。

 (松陰は)かれがやったり企てたりした反幕府活動のいっさいを語った。
 あほうといえば、古今を通じてこれほどのあほうはいないであろう。
 松陰は、吟味役の老獪さを見ぬけず、むしろ他人のそういう面を見ぬかぬところに自分の誇るべき欠点があると思っていた。

 司馬遼太郎氏によれば、吉田松陰が、間部詮勝殺害計画を自白したのは、吉田松陰の欠点によるものだとしています。
 しかし、津本陽氏は、吉田松陰は、死を覚悟して、自白したといっています。
 津本陽氏は、松陰が間部詮勝殺害計画を自白した事情を次のように書いています。

 幕府の松陰に対する嫌疑は、すべて氷解した。このままひきさがれば、松陰はふたたび萩に帰ることができる。
 だが松陰の身中で、憂国の熱情が、突然はじけ、炎を噴いた。
 松陰はペリー来航以来の政情につき、詳細に批判を陳べ、日本のとるべき方策につき意見を語りはじめた。その内容は、幕府重職が耳にしてもおどろくほど、海外の事情を網羅していた。
(中略)
 松陰はここで口をつむぐべきであった。だが幕府要人に時勢を論じ、よるべき国策を開眼させるべきであると思った。
 「僕は死に値する二つの罪を犯しているので、自首いたします」
 「それはいかなることか」
 松陰は大原三位西下策と老中間部詮勝要諫策をくわだてたこと事実をうちあけた。
 (中略)
 松陰は奉行たちが彼の意見を聞きとり、天下の大計、当今の急務を知り、一二の措置をすれば、自分は死んでもいいと考えていた。

 これを読むと、吉田松陰は、間部詮勝要諫策をしゃべって、それにより死罪となってもよいと、覚悟していたということになります。

 私には、「松風の人」に書かれた吉田松陰像のほうが、幕末の志士にふさわしいように感じられました。
by wheatbaku | 2014-12-09 09:52 | 江戸に関する本

江戸や江戸検定について気ままに綴るブログ    (絵は広重の「隅田川水神の森真崎」)
by 夢見る獏(バク)
S M T W T F S
1 2
3 4 5 6 7 8 9
10 11 12 13 14 15 16
17 18 19 20 21 22 23
24 25 26 27 28 29 30
31
以前の記事
2024年 03月
2024年 02月
2024年 01月
2023年 12月
2023年 11月
2023年 10月
2023年 09月
2023年 08月
2023年 07月
2023年 06月
2023年 05月
2023年 04月
2023年 03月
2023年 02月
2023年 01月
2022年 12月
2022年 11月
2022年 10月
2022年 09月
2022年 08月
2022年 07月
2022年 06月
2022年 05月
2022年 04月
2022年 03月
2022年 02月
2022年 01月
2021年 12月
2021年 11月
2021年 10月
2021年 09月
2021年 08月
2021年 07月
2021年 06月
2021年 05月
2021年 04月
2021年 03月
2021年 02月
2021年 01月
2020年 12月
2020年 11月
2020年 10月
2020年 09月
2020年 08月
2020年 07月
2020年 06月
2020年 05月
2020年 04月
2020年 03月
2020年 02月
2020年 01月
2019年 12月
2019年 11月
2019年 10月
2019年 09月
2019年 08月
2019年 07月
2019年 06月
2019年 05月
2019年 04月
2019年 03月
2019年 02月
2019年 01月
2018年 12月
2018年 11月
2018年 10月
2018年 09月
2018年 08月
2018年 07月
2018年 06月
2018年 05月
2018年 04月
2018年 03月
2018年 02月
2018年 01月
2017年 12月
2017年 11月
2017年 10月
2017年 09月
2017年 08月
2017年 07月
2017年 06月
2017年 05月
2017年 04月
2017年 03月
2017年 02月
2017年 01月
2016年 12月
2016年 11月
2016年 10月
2016年 09月
2016年 08月
2016年 07月
2016年 06月
2016年 05月
2016年 04月
2016年 03月
2016年 02月
2016年 01月
2015年 12月
2015年 11月
2015年 10月
2015年 09月
2015年 08月
2015年 07月
2015年 06月
2015年 05月
2015年 04月
2015年 03月
2015年 02月
2015年 01月
2014年 12月
2014年 11月
2014年 10月
2014年 09月
2014年 08月
2014年 07月
2014年 06月
2014年 05月
2014年 04月
2014年 03月
2014年 02月
2014年 01月
2013年 12月
2013年 11月
2013年 10月
2013年 09月
2013年 08月
2013年 07月
2013年 06月
2013年 05月
2013年 04月
2013年 03月
2013年 02月
2013年 01月
2012年 12月
2012年 11月
2012年 10月
2012年 09月
2012年 08月
2012年 07月
2012年 06月
2012年 05月
2012年 04月
2012年 03月
2012年 02月
2012年 01月
2011年 12月
2011年 11月
2011年 10月
2011年 09月
2011年 08月
2011年 07月
2011年 06月
2011年 05月
2011年 04月
2011年 03月
2011年 02月
2011年 01月
2010年 12月
2010年 11月
2010年 10月
2010年 09月
2010年 08月
2010年 07月
2010年 06月
2010年 05月
2010年 04月
2010年 03月
2010年 02月
2010年 01月
2009年 12月
2009年 11月
2009年 10月
2009年 09月
2009年 08月
2009年 07月
2009年 06月
2009年 05月
2009年 04月
2009年 03月
2009年 02月
2009年 01月
2008年 12月
ブログパーツ
ブログジャンル
歴史
日々の出来事