『華岡青洲の妻』は、この華岡青洲の妻・加恵を主人公とした小説です。
華岡青洲が、全身麻酔に成功するためには、家族の献身的な協力があり、『華岡青洲の妻』は、その家族の協力の様子を中心に描いた小説です。
しかし、単なる成功談として描かれなく、妻加恵と姑於継との争いが底流として流れているのが、女流作家有吉佐和子さんらしい描き方だと思いました。
この小説では、華岡青洲は脇役です。それは、小説の前半にまったく華岡青洲が現れないことでもわかります。
主人公は、タイトルの通り華岡多恵です。
華岡多恵は、紀州紀ノ川沿いの那賀郡市場村の名門妹背家から華岡家に嫁ぎました。
多恵が嫁いだ時、相手の華岡青洲(当時は雲平と名のっていた)は、京都に遊学したばかりで、華岡青洲のいない華岡家に、姑於継から望まれて嫁ぎました。
嫁いで3年後に、ついに雲平が京都から帰ってきます。
大喜びで雲平を迎える家族ですが、それまで加恵をかわいがってきた於継はなぜか加恵を排除しようとし、仲むつまじかった姑と嫁との間でいわゆる嫁姑の争いがはじまります。
雲平が帰って4年後、青洲の妹於勝が乳癌に冒され、於勝は、青洲が実験を重ねていた麻酔を使っての外科手術を望みますが、青洲は手術を行わず、於勝はまもなくなくなりました。
こうした中で、華岡青洲は、犬や猫を使っての実験を重ね、効果を高めていき、人体実験のレベルに到達します。
そこで、姑於継と加恵は、自分の身を実験に使って欲しいと願い出ます。
最初に実験台となったのは於継ですが、青洲は母親の老齢を思い麻酔レベルの低い麻酔薬の実験に留めます。
一方、加恵は、自分こそが真の実験台になることを申出て、半年後、青洲は本当の意味での麻酔薬の実験を、加恵を使って行います。
加恵は、三日目に無事目を覚ましますが、麻酔薬の副作用は甚大で健康状態を取り戻すのに半月を要しました。
その後、加恵に対抗意識をもつ於継から強い申出があり、2回目の実験を行いますが、この時の麻酔レベルも本来の麻酔薬からは低いものでした。
一方、加恵は、1回目の実験から2年経った時期に、青洲の最終的な実験に自らを捧げます。
華岡青洲は、非常に迷った中で、通仙散と名づけられた麻酔薬の実験を決断します。
多恵の献身により、二度目の実験も成功しますが、2回の実験に自身を捧げた加恵は視力を失ってしまいました。
視力を失った多恵は2人目の子供をみごもります。なお、一人目の女の子は、幼くしてなくなっています。
この子供は無事出産しますが、視力を失った加恵にかわり、嫁に行かず華岡家を支えていた華岡青洲の妹小陸が子育てします。
しかし、この小陸も乳がんにより亡くなります。
華岡青洲の母と妻の献身により完成した通仙散を使用し、青洲の妹2人の命を奪った乳がんの摘出手術に成功したのは文化元年(180)のことです。
『華岡青洲の妻』は、華岡青洲という医者を援けた母於継と妻多恵の献身的努力の背景には、華岡青洲の愛を奪い合おうという嫁姑との間の対抗心があるという有吉佐和子さんの視点は大変面白いと思いました。
また、多恵と於継だけの献身でなく、青洲の妹たちの献身もあったことにも注目している有吉佐和子さんの眼力がすばらしいと思います。
まさに女性の視点にたった小説であるといえると思います。


