『ふるあめりかに袖はぬらさじ』読了しました(江戸のヒロインたち)
有吉佐和子さんの「ふるあめりかに袖はぬらさじ」を読了しましたので、今日は「ふるあめりかに袖はぬらさじ」について書いていきます。

江戸検1級の第9回の問題に次のような問題がありました。
【85】〈露をだにいとふ倭の女郎花 ふる( )に袖はぬらさじ〉
これは文久2年(1862)、横浜にあった外国人専用の遊女屋「岩亀楼」の遊女喜遊が、外国人への身請けを強要されて自害する際に詠んだ辞世です。( )には身請けしようとした男の国籍が入りますが、それはどこでしょう? この事件は有吉佐和子の戯曲でも知られています。
い)あめりか ろ)いぎりす
は)おらんだ に)ふらんす
この問題文に『ふるあめりかに袖はぬらさじ』の概要が書かれています。
私は、「ふるあめりかに袖はぬらさじ」は小説だとばっかり思っていたので、手に取って見てみると戯曲なのでちょっと驚きました。
しかし、江戸検の問題文にも、ちゃんと戯曲と書いてありましたね。
解説の磯田光一氏によると、岩亀楼の喜遊は、医師太田正庵の娘で、両親の死後、吉原で遊女を勤めた後、岩亀楼に住みかえて喜遊と名乗り、アメリカ人イルウスに見込まれたが拒否して「短剣にて咽を刺串(さしつらぬ)き」て死んだと伝えられているそうです。
しかしながら、磯田氏も指摘していますが、有吉佐和子さんは、こうした伝承を基礎にしていますが、伝承とはまったく別の作品に仕上げています。
この戯曲は、4幕ものとなっています。
このなかで、喜遊は最初の2幕だけに登場します。4幕を通じて登場するの芸者のお園です。つまり、有吉佐和子さんの『ふるあめりかに袖はぬらさじ』では、想像の人お園が主人公です。1幕目では、喜遊とお園、そして喜遊の恋人(と思われる)藤吉が登場します。
ここで、喜遊と藤吉が、お互いに愛情をもっていて、お園はそれに気が付いているということが描かれています。
そして、2幕目では、アメリカ人イルウスが登場し、岩亀楼の主人と喜遊を見請けする話がまとまります。しかし、席をはずしていた喜遊が剃刀で喉をきって死んだところで2幕目が最後となります。
そして3幕目で、お園は「喜遊は、藤吉と添えるあてもなく、情けなく、死んでしまった」と真実を語ります。
しかし、その真実とは関係なく、喜遊は、アメリカ人に買われるのがいやで、懐剣で喉を突いて見事な最期をとげ、その時、『露をだにいとふ倭の女郎花 ふるあめりかに袖はぬらさじ』という辞世を詠んでいたという虚像がつくりあげられていくことになっていきます。
すっかり攘夷の風潮が納まった慶応3年7月に設定された4幕目では、それまで作り上げた喜遊に対する虚像がすっかり壊れることになり、最後は、「みんな嘘さ、嘘っぱちさ。おいらんは、喜遊さんは、淋しくって、悲しくって、心細くって、ひとりで死んでしまったのさ。」とお園が語りながら幕となります。
昨年のお題のテキスト『疾走!幕末・維新』をよく読んでみると「(喜遊の)死の原因は恋人との未来に悲観しただけで、しかも喜遊は読み書きができず、この話は攘夷論者の創作といわれている」と書かれています。
有吉佐和子さんの『ふるあめりかに袖はぬらさじ』は、まさにお題テキストの説明どおりの展開の作品でした。

