金王八幡宮③「宝物館」(渋谷散歩③)
金王八幡宮の社殿の右手に社務所があり、そこに併設されている宝物館はかなり充実しています。今日は宝物館に展示されているものの中で代表的なものだけを紹介します。
《神輿と鳳輦》
宝物館の中央には、神輿と鳳輦が飾られています。下写真の手前が神輿で奥が鳳輦です。
金王八幡宮の神輿は、作者は不明なものの鎌倉時代のもので、都内最古の神輿だそうです。この神輿は、江戸時代の初期に、金王八幡宮の氏子であった青山百人組の人たちが鎌倉八幡宮の祭礼に参詣した際、鎌倉から担いできて、金王八幡宮に奉納したものです。この神輿を追ってきた人々は、途中で日が暮れたため神輿を見失ってしまったと言われ、その場所は「暗闇坂」と呼ばれているそうです。
鳳輦は、昭和31年に新調したもので、9月の例大祭には氏子地域を渡御します。
《算額》
金王八幡宮の宝物殿には三面の算額が展示されています。
算額は数学の問題が書かれた絵馬のことで、江戸時代になってから神社仏閣に奉納されるようになりました。
金王八幡宮の算額は、幕末に奉納されたもので、今でも図形が鮮やかで美しい算額です。金王八幡宮の算額の難易度は高校レベルだそうです。
①嘉永3年(1850)5月に、中渋谷村の海老澤摠右衛門正泰が奉納した数列の問題を出題した算額です。
②安政6年(1859)4月に、関流の伊予国西條藩の藩士山本庸三郎貴隆が奉納された算額で、問題は3問あります。
③元治元年(1864)に、関流の野口富太郎貞則が奉納した扇形の算額です。扇形の算額は珍しいものです。
冲方丁(うぶかたとう)の時代小説「天地明察」に金王八幡宮が登場します。
「天地明察」は江戸時代の天文学者渋川春海の改暦事業を題材にした小説で、岡田准一主演で映画化もされました。
小説で、渋川春海は金王八幡宮に奉納されている算額を通して、和算家の関孝和を知ることになりますが、金王八幡宮は算額が奉納されることで有名な神社として描かれています。
「天地明察」を機に算額に興味をもった読者が大勢金王八幡宮に参詣するようになったそうですが、渋川春海が金王八幡宮に算額を奉納した記録はないそうです。
《東郷実氏奉納の額》
渋谷氏の子孫は全国各地に広がっていますが、薩摩にも鎌倉時代に渋谷氏が下向し、東郷氏、祁答院氏、鶴田氏、入来院氏、高城氏の一族がいます。有名な東郷平八郎元帥も渋谷氏の子孫の一人です
その東郷平八郎元帥の二男で海軍少将まで昇進した東郷実氏が奉納した額が宝物館に展示されています。