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奥津・江尻(広重『東海道五十三次』7)

奥津・江尻(広重『東海道五十三次』7

広重『東海道五十三次』について、今日は、奥津(興津)と江尻について書いていきます。

18、奥津(興津川)

 この絵の題名をよくみると「奥津」となっています。興津は、現在は「興津」と書いて、静岡市清水区の一部です。しかし、江戸時代には「奥津」「沖津」とも書かれた例があります。広重も保栄堂版「東海道五十三次」の場合は、「奥津」と表記しています。

そして、副題は「興津川」です。その副題の通り、興津川の川渡しの様子が描かれています。

 興津川は、薩埵峠を下りきった場所にありました。

 興津川には、橋が架けられていなくて、冬季には仮橋が架けられますが、それ以外には歩行(かち)渡しでした。

 この絵は、興津川の右岸(西側)から河口方向に向かって眺めた絵です。

 左手の大きな岩や山肌が薩埵峠からの山裾です。中景に松原が描かれている海岸は清見潟です。この辺りが万葉集に詠まれた「許奴美(こぬみ)の浜」という説もあります。

 絵の中央で興津川を渡っているのは二人連れの相撲取りです。

前を行く相撲取りは駕籠に窮屈そうに体を小さくして乗っています。

駕籠を担ぐのは普通は二人ですが、体重の重い相撲取を乗せているため、ここでは四人がかりで担いでいます。四人で担ぐ場合は「よつ天」といい、3人で担ぐ場合には「とんぼ」と言ったそうです。

もう一人の相撲取りは馬で渡っています。馬も重そうにしています。

馬の両脇に荷物をつけてその上に座布団を敷いて人がのる乗り方を「乗掛(のりかけ)」というそうですが、この絵で相撲取りが乗っている乗り方は乗掛で荷物も乗せられていますので、一層重たかったことでしょう。

奥津・江尻(広重『東海道五十三次』7)_c0187004_16442113.jpg
 「国立国会図書館ウエッブサイトから転載」

 川渡しの絵を描く場合には、普通は大名行列、武士、庶民を描くのが普通でしょうが、相撲取りが描かれているのが異色です。

 これには、広重が参考にしたネタ本があるようです。広重は、各所の風景を描く際に、江戸時代に各地で発行されていた名所のガイドブック「名所図会」を参考にしたそうです。そして、広重『東海道五十三次』を書く際には、寛政9(1797)刊の『東海道名所図会』を参考にしているそうです。

この絵も『東海道名所図会』の巻之四の挿絵安部川に描かれた安部川の土手を駕籠と馬で行く相撲取りたちの姿を参考にしているのだそうです。

19、江尻(三保遠望)

 江尻は、平成の大合併までは清水市でしたが、現在は、静岡市清水区にあります。江尻は江(川)の尻(河口)に由来する地名で、その名の通り巴川の河口に発達した町です。

 この絵は、江尻宿から東の方向を描いた絵です。

最も手前に家並が描かれていますが、これが江尻宿の家並です。その先に描かれているのが清水湊で、画面左方の山並みは愛鷹山です。愛鷹山の左には、富士山が見えるはずですが、どうしたわけか、広重は富士山を描いていません。絵の正面の奥に描かれている三角形の山は沼津の鷲頭(わしず)(標高392メートル)とのことです。

 

 奥津で、広重が『東海道名所図会』を参考にしたと書きましたが、この江尻も『東海道名所図会』を参照しているそうです。

『東海道名所図会』の巻之四に京都の絵師原在正(はらざいせい)が寛政8(179 6)に久能山から写生して描いた「在久能山上望三保崎(くのうさんじようにありてみほざきをのぞむ)」という絵があり、それを参照しているそうです。

前景の清水湊には、停泊している船や帆を上げて動きだした船など多くの船が描かれています。その湊の先の中景に海の中に長く伸びている緑豊かな砂州が羽衣伝説で有名な三保の松原です。緑は松の木々です。ここから副題が「三保遠望」となっています。

三保の松原の先には駿河湾が広がっていて、帆を広げた船が多数描かれています。

広重『東海道五十三次』のほとんどの絵に人物が描かれていますが、この絵は、景色だけが描かれています。従って、この絵には人物が一人も描かれていないことも特徴の一つになります。

奥津・江尻(広重『東海道五十三次』7)_c0187004_16442153.jpg
「国立国会図書館ウエッブサイトから転載」


by wheatbaku | 2020-05-25 16:37 | 広重『東海道五十三次』

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