人気ブログランキング | 話題のタグを見る
御油・赤坂(広重『東海道五十三次』18)

御油・赤坂(広重『東海道五十三次』18

 今日の広重『東海道五十三次』は、御油と赤坂を取り上げます。

 御油も赤坂も、東海道線が通ってないため、首都圏の人にはあまりなじみがないと思いますが、現在、御油、赤坂とも愛知県豊川市となっています。
 以前、紹介した姫街道は、御油宿と見付宿をつなぐ街道です。見附宿から姫街道に入った旅人は、気賀関所を通過して本坂峠を越えて、御油宿の手前にある御油の追分で東海道と再び合流しました。

御油(旅人留女)

 御油という地名は珍しい地名ですが、持統天皇が近くの宮路山に行幸されたとき、油を献上したという伝説に由来する地名です。

 ここは、この絵の副題ともなっている「留女(とめおんな)」が有名でした。

 「留女」とは、宿場で旅人を旅籠へ呼び込む女性ですが、御油の留女は強引なことで有名でした。

 この絵でも、夕暮れ時の宿場の往来の真ん中で、留女が旅人の腕をとらえ、たり肩の荷物を無理矢理つかんで、自分の勤める旅籠に何としても泊まってもろおうとしています。

一方、2人の旅人は、留女から必死に逃れようともがいています。この滑稽な雰囲気は、「東海道中膝栗毛』にヒントを得たものだとも言われています。

 「東海道中膝栗毛」には、夜になって御油の宿にたどり着いた弥次郎兵衛が、両側の旅籠の留女にしつこく袖を引かれ、ようやくの思いで振り切った様子が次のように書いてあります。

 「御油の宿に入りたる頃は、はや夜に入て両側より出て来る留女いずれも面をかぶりたる如く塗たてたるが、袖を引てうるさければ弥次郎兵衛ようようと振り切り行き過ぎる」と書いてあります。

なお、吉田宿から御油に向かう途中で喜多八だけ先に急いでいったため、御油で留女に引き留められたのは弥次郎兵衛だけですが、多分、喜多八も留女に袖を引かれたことでしょう。

 この絵では、こうした留女たちの強引な客引きぶりが、右側の旅籠の灯りを受けて明るく描かれています。その一方で、中景の家並は暗い色調で描かれ、遠景となる地平線近くの空は濃い藍で描かれています。

こうした色彩変化により、前景の留女と旅籠屋が暗闇の中でライトアップされたような雰囲気を作りだしています。

御油・赤坂(広重『東海道五十三次』18)_c0187004_16160053.jpg

「国立国会図書館ウエッブサイトから転載」

前景の右側の旅籠の中をよくみるとおもしろいことがわかりますので、その部分を拡大した下の画像をご覧ください。。

旅籠の入り口では、 いま到着した客が草鞋(わらじ)を脱いで足を洗っています。その左脇に外を眺める女性が描かれていますが、この女性に強引に留められた旅人かもしれません。そう思うと女性は勝ち誇っているようにも見えます。

足を洗っている客の後ろの梁からつり下げた木札をよく見ると、「五拾五番」、「東海道続画」と書かれています。また、「彫工治郎兵衛」「摺師(すりし)平兵衛」「一立斎」などの名前も書かれています。「一立斎」というのは広重の号ですので、広重と彫師と摺師の名前です。また、奥の壁に書かれている「竹之内板」というのは版元保永堂のことです。つまり、広重は、この絵の中でしっかりと保永堂版『東海道五十三次』を宣伝しているのです。

御油・赤坂(広重『東海道五十三次』18)_c0187004_16160065.jpg

 

赤阪(旅舎招婦ノ図)

御油と赤坂の両宿の間は東海道の宿駅間の距離はわずか16 (約1.7キロ)しかありません。これは問屋場の間の距離なので、棒鼻(宿場町の入り口)間の距離はもっと短いものでした。

目と鼻の先といってもいい距離に、似た規模の宿場が位置していましたので、客の争奪戦はたいへん熾烈だったといわれています。「御油」で留女による激しい客引きがあったのは、宿場間の激しい競争を反映したものかもしれません。  

また、御油と赤坂は、宿泊客を集めるため、それぞれ、数多くの飯盛女を抱えていました。

この絵は、副題「旅舎招婦」の通り、そんな飯盛女の様子を描いています。「招婦」とは飯盛女を漢語表現したものです。絵の右手の布団部屋のような部屋で鏡台に向かっているのがこの旅籠の抱える飯盛女たちで、客の前に出るための準備に余念のない様子が描かれています。

 また、左の部屋では煙草をくゆらせてくつろいでいる客のもとに、宿の女が膳を運んできています。その横ではかしこまった按摩が御用を賜っています。まるで、お客は、煙草を吸いながら、「それじゃぁ、今晩頼むよ」とで言っているようです。

手前の廊下には、たった今、湯から上がった男が手ぬくいを肩に掛けて帰ってきています。
この絵には、夕食時の旅籠の様子が描かれていて、当時の旅籠の内部のつくりもよくわかることから、歴史の本などにもよく利用されています。

御油・赤坂(広重『東海道五十三次』18)_c0187004_16160030.jpg
「国立国会図書館ウエッブサイトから転載」

按摩の後ろには梯子段があり、二階から降りてくる人の足だけが描かれています。また、梯子段の脇には「御用」の提灯を傍らに置く人の背中が見えていますが、これは飛脚など幕府御用を賜っている人が草鞋を脱いでいるのでしょう。

按摩の頭の左上には手拭いが描かれていますが、その柄は「ヒロ」と書いてあるようです。もちろん広重の宣伝です。

御油・赤坂(広重『東海道五十三次』18)_c0187004_16160028.jpg





by wheatbaku | 2020-07-02 16:09 | 広重『東海道五十三次』

江戸や江戸検定について気ままに綴るブログ    (絵は広重の「隅田川水神の森真崎」)
by 夢見る獏(バク)
S M T W T F S
1 2 3 4 5 6
7 8 9 10 11 12 13
14 15 16 17 18 19 20
21 22 23 24 25 26 27
28 29 30 31
以前の記事
2024年 07月
2024年 06月
2024年 05月
2024年 04月
2024年 03月
2024年 02月
2024年 01月
2023年 12月
2023年 11月
2023年 10月
2023年 09月
2023年 08月
2023年 07月
2023年 06月
2023年 05月
2023年 04月
2023年 03月
2023年 02月
2023年 01月
2022年 12月
2022年 11月
2022年 10月
2022年 09月
2022年 08月
2022年 07月
2022年 06月
2022年 05月
2022年 04月
2022年 03月
2022年 02月
2022年 01月
2021年 12月
2021年 11月
2021年 10月
2021年 09月
2021年 08月
2021年 07月
2021年 06月
2021年 05月
2021年 04月
2021年 03月
2021年 02月
2021年 01月
2020年 12月
2020年 11月
2020年 10月
2020年 09月
2020年 08月
2020年 07月
2020年 06月
2020年 05月
2020年 04月
2020年 03月
2020年 02月
2020年 01月
2019年 12月
2019年 11月
2019年 10月
2019年 09月
2019年 08月
2019年 07月
2019年 06月
2019年 05月
2019年 04月
2019年 03月
2019年 02月
2019年 01月
2018年 12月
2018年 11月
2018年 10月
2018年 09月
2018年 08月
2018年 07月
2018年 06月
2018年 05月
2018年 04月
2018年 03月
2018年 02月
2018年 01月
2017年 12月
2017年 11月
2017年 10月
2017年 09月
2017年 08月
2017年 07月
2017年 06月
2017年 05月
2017年 04月
2017年 03月
2017年 02月
2017年 01月
2016年 12月
2016年 11月
2016年 10月
2016年 09月
2016年 08月
2016年 07月
2016年 06月
2016年 05月
2016年 04月
2016年 03月
2016年 02月
2016年 01月
2015年 12月
2015年 11月
2015年 10月
2015年 09月
2015年 08月
2015年 07月
2015年 06月
2015年 05月
2015年 04月
2015年 03月
2015年 02月
2015年 01月
2014年 12月
2014年 11月
2014年 10月
2014年 09月
2014年 08月
2014年 07月
2014年 06月
2014年 05月
2014年 04月
2014年 03月
2014年 02月
2014年 01月
2013年 12月
2013年 11月
2013年 10月
2013年 09月
2013年 08月
2013年 07月
2013年 06月
2013年 05月
2013年 04月
2013年 03月
2013年 02月
2013年 01月
2012年 12月
2012年 11月
2012年 10月
2012年 09月
2012年 08月
2012年 07月
2012年 06月
2012年 05月
2012年 04月
2012年 03月
2012年 02月
2012年 01月
2011年 12月
2011年 11月
2011年 10月
2011年 09月
2011年 08月
2011年 07月
2011年 06月
2011年 05月
2011年 04月
2011年 03月
2011年 02月
2011年 01月
2010年 12月
2010年 11月
2010年 10月
2010年 09月
2010年 08月
2010年 07月
2010年 06月
2010年 05月
2010年 04月
2010年 03月
2010年 02月
2010年 01月
2009年 12月
2009年 11月
2009年 10月
2009年 09月
2009年 08月
2009年 07月
2009年 06月
2009年 05月
2009年 04月
2009年 03月
2009年 02月
2009年 01月
2008年 12月
ブログパーツ
ブログジャンル
歴史
日々の出来事