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土山、水口(広重『東海道五十三次』29)

土山、水口(広重『東海道五十三次』29

 今日は、広重『東海道五十三次』で、土山と水口についてご案内します。

土山(春之雨)

 土山宿は、阪之下宿から難所の鈴鹿峠を越えゆるやかな坂を1里半ほど下ったところにあります。

阪之下宿は伊勢国ですが、鈴鹿峠を越えると近江国になりますので、土山宿から近江国です。土山宿は、現在は、滋賀県甲賀市土山町となっています。甲賀市の読み方ですが、「コウガ」と濁らずに「コウカ」と読みます。

 広重は、雨が降る中で、小さな渓流に架かった橋を渡る大名行列を描いています。副題に「春之雨」とあるので、季節は春になります。

描かれている場所は、土山宿の手前を流れている田村川に架かっていた田村橋だと言われています。

絵の左上の木立の奥に描かれている建物は、田村神社だという説もあります。田村神社は、征夷大将軍坂上田村麻呂を祀った神社です。

 鈴鹿馬子唄は、「坂は照る照る鈴鹿は曇る。あいの土山雨が降る」と唄っています。坂とは鈴鹿峠に向かって登る坂、あるいは阪之下あたりを指すのでしょう。 そして、鈴鹿とは鈴鹿峠の頂上付近を指すのでしょう。つまり、鈴鹿峠を上っている時に晴れていても、鈴鹿峠を越えるときには曇ってきて、土山では雨がふるということを唄ったものだと思います。それほど、土山は雨が降りやすかったということなのだと思います。

そこで、広重も、鈴鹿の馬子唄を踏まえて雨に降られる土山を描いたのでしょう。
保永堂版「東海道五十三次」で、広重は、雨の絵を、「大磯」と「庄野」でも描いています。「土山」で3つ目ということになります。

庄野では、雨を墨色の線を斜めに交差させて激しく降る様子を描きました。

ここでは、雨は、多少交差しているもののほぼ直角に降っているように描かれています。つまり、静かに雨が降っているのでしょう。まさに「春雨」の風情です。

雨を描くにしても、一様に描くのではなく、「大磯」の雨、「庄野」の雨、「土山」の雨それぞれに異なった描き方がされ、様々の雨の表情を見せてくれています。

土山、水口(広重『東海道五十三次』29)_c0187004_16382654.jpg

水口(名物千瓢)

 土山から229町で水口宿となります。

水口は城下町でもあり、保永堂版が描かれた時期には25千石の加藤家が治めていました。

「名物干瓢(かんびよう)」の副題が示すように、保永堂版で広重が描いているのは、水口の農家で干瓢を作っている様子です。

絵の前景には、街道沿いで農家の女たちが干瓢を作っている様子が描かれています。

その女性たちの先の街道を旅人がゆっくりと歩いて行っています。

さらに、街道を挟んだ向かいの農家でも垣根に回した紐に干瓢を掛けています。

土山、水口(広重『東海道五十三次』29)_c0187004_16382632.jpg

干瓢はタ顔の果肉を細長く剥いて乾燥させたものです。干瓢は現在は栃木県が全国生産のほとんどを占めていますが、水口は江戸時代以来の干瓢の産地です。

栃木県で干瓢が作られるようになったのは、正徳2 (1712)に水口藩主の鳥居忠英(ただてる)が下野国壬生藩に転封された際に、干瓢の製法を伝えたことに始まるといわれています。

一方、水口では、正徳2年に壬生から転封となった加藤嘉矩(よしのり)が壬生から優れた技術を伝えたので、干瓢生産が盛んになったと言われています。(『水口町誌』による)

本家争いというのは、こちらが最初だというのが多いのですが、干瓢に関しては、壬生も水口も「本家はそちら様です」と言っているのがおもしろいと思います。

干瓢を作っている農婦を拡大してみると、干瓢の作り方がわかります。

背中に幼児をおぶった少女が運んでいるのは加工される前の丸い夕顔の実(ふくべ)です。次いで中央の女性がふくべを剥いています。そして、それを乾燥させるために、右の女性が張り巡らせた紐の上に掛けています。乾いてできあがったものが干瓢です。

土山、水口(広重『東海道五十三次』29)_c0187004_16382607.jpg

水口城は、豊臣秀吉の時代には、五奉行の一人であった長束正家が城主でした。(この時の城は水口岡山城といい、その後の水口城とは異なっています)

しかし、関ヶ原の戦いで西軍が敗北し長束正家も自刃したため、水口は幕府領となりました。3代将軍徳川家光が寛永11年(1634)に上洛する際の宿館として水口城が築城されました。この際の作事奉行が、建築や作庭あるいは茶道などで有名な小堀遠州政一です。
 しかし、その後、城主がいない時代が50年ほど続いた後、天和3年(1682)、賤ヶ岳の七本槍の一人加藤嘉明の孫の加藤明友が2万石で近江国水口城主となり、新たに水口藩が成立しました。
 水口城は別名「碧水城」と言いますが、これは、湧水を利用した堀に青い水をたたえていたことから、明友が命名したものだそうです。
 加藤家は2代続き、子の明英は、元禄8年(1695)、下野壬生藩に移封となり、代わりに鳥居忠英が2万石で入封しました。その後、鳥居忠英は、正徳2年(1712年)に下野壬生藩に移封となり、入れ替わりに下野壬生藩より加藤明英の養子嘉矩が25千石で入封しました。
 つまり、水口藩からは2代続いて藩主が壬生藩に移封となり、壬生藩にいた加藤家は元の水口藩に戻ったということになります。
 加藤家は、その後、明治維新まで水口藩主として存続しました。




by wheatbaku | 2020-08-13 16:30 | 広重『東海道五十三次』

江戸や江戸検定について気ままに綴るブログ    (絵は広重の「隅田川水神の森真崎」)
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