日永の追分、そしてその後の旅(「東海道中膝栗毛」20)
四日市で泊まった弥次さん喜多さんですが、弥次さん喜多さんの旅の目的はお伊勢参りでしたので、四日市の宿の先にある追分(日永の追分と呼ばれる)で東海道から分かれて伊勢街道に入ります。
この連載は、江戸時代の東海道をより深く知っていただこうという趣旨で書いています。そのため、弥次さん喜多さんの旅は、まだまだ続きますが、追分からは東海道を離れますので、弥次さん喜多さんの東海道の旅は今回で終了とさせていただきます。
それでは、弥次さん喜多さんの四日市から日永の追分までの旅のあらすじを書いてみます。
四日市の宿屋で石地蔵に夜這いをして大騒ぎとなった弥次さん喜多さんですが、一眠りした後、四日市の宿屋を出立しました。
道中で、桑名の御開帳に向かう天蓋寺の蛸薬師(この寺名と仏名は架空)の行列と出会った後、日永の追分に着きました。
この日永の追分では、あいかわらず滑稽な珍事を起こしています。
日永の追分は、四日市宿から4.5キロほど先にあり、東海道と伊勢に向かう伊勢街道との分岐点にあたります。
日永の追分は、饅頭が名物で茶屋の娘が声をかけてきます。
喜多さんは、鍵屋という茶店の娘に惹かれて二人は鍵屋という茶店に入ります。
ここで弥次さんは、居合わせた金比羅参りの男と饅頭の食べ較べを始めることになりました。最初に弥次さんが10個食べて、金毘羅参りに勝ちます。この勝ちに味をしめたのか、弥次さんは、金比羅参りの男が20個食べたら、そのお代と金毘羅様へのお初穂100文を差し上げると賭けますが、金毘羅参りは見事に食べてしまいます。悔しがった弥次さんは、さらに20個食べれば、お代と初穂300文と賭けますが、金毘羅参りはこれもあっさりと食べてしまい、初穂代も支払うことになり弥次さんは大変悔しがります。
勝負が終わると金毘羅参りは、一礼をして後も見ずに行ってしまいました。悔しがる弥次さんに、通りがかった馬子が、実は、この金比羅参りの男は悪名高い手品師で、饅頭も食ったとみせかけ、懐にしまうということを教えてくれました。まんまと一杯食わされた弥次さんは大いに悔しがりますが、喜多さんは、のんきに次の歌を詠んでいます。
盗人に 追分なれや まんぢうの
あんのほかなる 初穂とられて
下挿絵は、「鍵屋」という茶店で居合わせた弥次さん喜多さんと金毘羅参りです。右が金毘羅参りです。

この後、追分から伊勢街道にはります。
日永の追分には、鳥居があり、桑名の七里の渡しに建てられた一の鳥居に対して二の鳥居と呼ばれました。この鳥居は、四日市を描いた浮世絵に多く描かれています。歌川広重も、東海道五十三次シリーズのうちの隷書版や行書版で、この鳥居を中心にした追分の風景を描いています。
下絵は、隷書版の「四日市・日永村追分参宮道」です。中央の鳥居の両側の茶店の看板には「名物まんぢゅう」と書かれています。

さて、この後の弥次さん喜多さんの旅の概略を書いておきます。
弥次さん喜多さんは、追分で東海道から伊勢街道に入り、伊勢神宮にお参りします。
その後、大和を通り京都・大坂見物に向かいました。
しかし、大和も見どころは多いのですが、「東海道中膝栗毛」六編の上の出だしに、次のように書かれていて、大和は省略されています。
〇伊勢路から大和巡りを約束していたが、一足飛びに伏見から京大坂とします。大和の名所めぐりは、あまり珍しくないので、端折ります。
〇大和路からは大坂に行くのが普通のコースだけれど、京見物を先にして、大坂を後にします。
〇京名所をことごとく書いていくのは際限ないので、祇園・清水・知恩院などに行ったぐらいのことにします。
この、前書きの通り、京都では、清水寺、祇園社(現在の八坂神社)、北野天満宮などでのエピソードが書かれています。
京都は名所がたくさんあるのですが、弥次さん喜多さんがその一部しか訪ねていないのは、十返舎一九自身が京都に不案内であったためであると「東海道中膝栗毛」7編上の冒頭に書いています。
こうして京都見物が終わると大坂に向かいました。
大坂では、分銅河内屋という旅籠に宿泊し、高津社(現在の高津宮:こうづぐう)、天満宮、四天王寺、住吉神社などを見物しています。
そして、大坂見物が終わったところで「東海道中膝栗毛」は終了となっていますが、「東海道中膝栗毛」八巻下の最終部で、木曽を通り、草津温泉に行き、さらに善光寺までお参りして、その帰りには榛名妙義まで見物して帰るとしていました。
しかし、「東海道中膝栗毛」は非常に評判が良かったため、弥次さん喜多さんの旅はさらに遠くまで出かけることとなりました。
実際に「東海道中膝栗毛」はその後も出版されて、弥次さん喜多さんは、金比羅、宮島まで訪ねることとなり、その後に、木曾、善光寺、草津温泉、中山道を旅して江戸に帰ることになりました。
以上にて、20回に亘って書いてきた「東海道中膝栗毛」の連載を終了させていただきます。

