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滝野川反射炉の建設(幕末の大砲製造所④)

滝野川反射炉の建設(幕末の大砲製造所④)


 JR王子駅から徒歩10分の所に「旧醸造試験所第一工場」があります。赤レンガ造りの建物で、平成2612月に国の重要文化財に登録されました。(下写真)

滝野川反射炉の建設(幕末の大砲製造所④)_c0187004_17415192.jpg

 この「旧醸造試験所第一工場」近くに、元治元年(1864)に、小栗上野介らが上申し建設された滝野川反射炉がありました。

今日から数回にわたり、滝野川反射炉について書いてみます。 


湯島大小砲鋳立場で製造された大砲は青銅製でした。しかし、ヨーロッパでは青銅製でなく鉄製大砲の時代を迎えていました。

青銅製の大砲に比べて鉄製の大砲は性能面ですぐれていました。また、青銅は銅と錫の合金でした。銅は鉄より高価な金属でした。しかも、江戸時代初期には世界一の産出高を誇った日本産の銅の産出が徐々に落ち込んできていました。そこで、安価な材料としての鉄が注目されたと思われます。


 こうした諸般の事情から、関口大砲製造所設立が検討される時期には青銅製の大砲でなく鉄製の大砲を製造しようという意見が強くなりました。

すでに日本でも安政4(1857)に江川太郎左衛門が伊豆韮山に反射炉を築いて鉄製の大砲を製造したほか、佐賀藩、薩摩藩、水戸藩も製造に成功していました。

このため、関口に大砲製造所を建設する際に反射炉を築こうという計画が立てられました。


しかし、関口には反射炉が築かれることはありませんでした。

関口に反射炉を建設することが見合わされた理由は、関口が低湿地だったためです。小栗上野介は「なにぶん関口は湿地にて、しかるべしとは申し上げ難し」として、別に適地を探すよう既に建言していました。

その建言が幕閣に採用されることになり別の適地を探すこととなりました。

そして、反射炉建設地として候補になったのが、滝野川でした。


元治元年(18647月、小栗上野介忠順、川勝丹波守広運、竹内下野守保徳、立田主水正正直の4名連名で、反射炉・錐台建設についての上申書「滝野川村地内反射炉錐台(すいだい)御取建之義に付申上候書付」が提出されました。


海舟全集第6巻「陸軍歴史上」に収録されています。それは漢文で書かれていますが、それを現代語文にしたものが「北区史」に載っています。そこで「北区史」を参照に上申書を次に記載します。


「大砲製造の義につき、追々仰せ出され候趣もこれあり候ところ、反射炉御建築の義、永久鋳造所に然かるべき地所見立て、錐台(すいだい)その外とも一所に取纏め候見込みにて申し上ぐべき旨、御書き取りの趣、その意を得奉り、御府内近郊の内、地勢水利の便否それぞれ取り調べさせ候ところ、滝野川村地内において反射炉・錐台等御建築相成(なり)候わば、水利の便利は勿論、永久然かるべき地所と相見込み候につき、先達て(せんだって)御勘定方支配向差し遣し、実地見分致し、分間測量など致させ候ところ、同村耕地堀割千川の水引入れ、水車仕掛けに致し候えば、便宜の御場所と相成るべき趣、(中略)御膝元近きの御場所において滝野川村地内の外、相応の場所これなく候間、いずれにも同所へ御決定下され、引続き千川堀割長九百間余の処、早々御普請の積り相心得、前文云々の始末から篤(とく)と御熟考の上、厳しく御作事奉行へ御内論の御沙汰成下さるべく候、これより此段申上侯」


滝野川が候補となったのは、滝野川の近くまで千川上水が通じていて水車の利用が可能となることや隅田川に通じている石神井川を利用すれば大砲製造の原材料を運搬したり出来あがった大砲の運搬が容易となることなどが主な理由でした。





by wheatbaku | 2022-07-20 17:40 | 近代化に貢献した幕臣

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