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鹿島紡績所と抄紙会社(幕末の大砲製造所⑨) 

鹿島紡績所と抄紙会社(幕末の大砲製造所⑨) 


滝野川大砲製造所が幕府の瓦解によりその役割を終えた後、その遺産(特に王子分水)を引き継いで滝野川と王子に近代工場が設立されます。その一つが滝野川の鹿島紡績所であり、もう一つが抄紙会社(後の王子製紙)です。

滝野川大砲製造所の跡地に設立された鹿島紡績所を創立したのは、深川の木綿問屋鹿島万平です。

鹿島万平は、深川の米屋の次男として生まれ、嘉永2(1849)から、木綿・繰綿問屋を開業し、横浜開港後、綿花貿易に従事していました。

明治3年、滝野川に民間初の鹿島紡績所を設立し、明治5年に操業が開始されました。

当時の西洋式の紡績機械の動力は水車でした。鹿島紡績所が滝野川に設立されたのは、水車の動力となる王子分水があったためです。

明治21年、鹿島紡績所は、鹿島万平の長男萬兵衛の奔走によって設立された東京紡績株式会社と合併し、滝野川の工場は廃止されました。なお、東京紡績の設立に尽力した鹿島萬兵衛は、「江戸の夕栄」(大正11年発行)を著しています。

鹿島紡績所と抄紙会社(幕末の大砲製造所⑨) _c0187004_20195633.jpg

明治37年に、鹿島紡績所跡地に、大蔵省が「醸造試験所」を設置しました。「醸造試験所」は、昭和34年に国税庁の所管になったのち、平成7年に東広島市へ移転し、その跡地は「醸造試験場跡地公園」などとして利用されています。



鹿島紡績所とともに滝野川大砲製造所の遺産を引き継いだのが抄紙会社(後の王子製紙)です。抄紙会社の設立に深く関わったのが渋沢栄一です。

明治維新後、渋沢栄一は、文明・文化が発展するためには、印刷事業を盛んにして書物や新聞を多く発行する必要があり、そのためには安価で大量に印刷できる洋紙を製造できるようにすべきだと考えました。そこで、明治6年、抄紙会社(後の王子製紙)を創立します。


そして、製紙機械の買入や外国人技術者の雇い入れなどとともに工場をどこにたてるかも重要テーマとして検討されました。工場用地の選定は、北区史によれば、「一に水が清くて良く、而も水量が豊富でなくてはならぬ、(中略)その次には交通の便も良くなくてはならぬ」という方針のもとに行われたようです。

そして、外国人技術者たちを交えて、小日向・関口のほか岩淵・王子・板橋、さらには品川川崎など各地で調査が行われました。その結果、王子の地が選ばれました。王子への工場用地の決定は、水質の良い王子分水が利用可能であること、東京の中心地にも近く原料の破布が手に入りやすいこと、原材料や製品の運搬に「隅田川」に通じる「石神井川」の舟運が利用できるなどの理由によるものです。

また、鹿島紡績所の創業者鹿島万平の推薦や王子村の大谷倉之助など有志の積極的なエ場誘致の働きかけもあったことも要因の一つだったようです。

製紙工場建設にあたって最も重要なことは工場用水の確保でした。それを可能にしたのは王子分水の存在でした。

「王子製紙社史」(昭和31615日発行第1巻には次のように書かれています。

「王子村に工場を建設するについて最も重大な問題になったのは用水であった。製紙事業にとって用水は死活に関する重要事だったからである。(中略)こうして会社の利用にまかされた水は徳川幕府が慶応元年に王子・滝野川に大砲鋳造の目的を以て、反射炉を築造するにあたって、それに要する用水を得るため、千川上水を巣鴨から分流して来たものである。(後略)」


このように、抄紙会社(王子製紙)も千川上水の分水である王子分水の恩恵をうけていたのです。





by wheatbaku | 2022-08-15 20:17 | 近代化に貢献した幕臣

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